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新潟日報 10月8日号 五頭からのたより「心に響く言葉を探して』

 五頭のふもとでは稲刈りが終わり、裸になった田んぼの上には、たくさんの赤とんぼが飛んでいます。ほおに当たるひんやりとした風、田の香り、草むらの虫の音、食卓に並ぶ食材など、さまざまなものが秋の訪れを感じさせてくれます。
 さわやかな陽気が続いていると、ついどこかへ出掛けたくなる、染まり行く秋の誘いが心に働きかけます。 
 五頭温泉郷の出湯口と村杉口を結ぶ林道に「やまびこ通り」という名の通りがあります。五頭山の中腹にある自然あふれる全長5キロの道のりにはところどころにピンク色の萩の花が咲いていました。生い茂る木々の間からのぞくと、眼下には蒲原平野が広がり、晴れの日には遠く佐渡まで見ることができます。
 この通りは松尾芭蕉の「奥の細道」をヒントに造られた道のようで、五頭温泉郷によく訪れていたという相馬御風や書家の横山蒼鳳、ドカベンの水島新司の作品をはじめ、252もの歌碑や句碑が並んでいます。
 難しい感じや言葉が連なる石碑の中、こんな句を見つけました。「みそ汁はだいこんさんのプールだね」。2歳のお子さんの作品で、俳句好きのおじいちゃんが石碑にしたのでしょうか。思わず顔がほころんでしまいました。
 幼い子の素直な言葉も、人生の先輩のありがたい言葉も、夫婦がお互いを思いやる言葉も、仲間同士の思い出を刻む言葉も、自然を慈しむ言葉も、いろんな人の思いがここにはあるのだなぁと歩きながら思いました。
 「やまびこ通り」。やまびことは、こだまして響き返ってくることを言います。言葉とは人の心を伝えるもの、心の表れです。この通りの数多くの詩や句の中で自分にふさわしい言葉と出逢い、そしてその言葉が訪れた人たちの心の中で響くことができたなら、とても素敵なことだと思います。もしかしたら、忘れかけている言葉たちがここにあるかもしれません。
 普段の暮らしの中でも、人から掛けてもらった言葉にどのような言葉で返してあげるか考えることが必要かもしれません。そんなことを少し心がけることでも、響きは大きく違ってくると思います。
 人の心に届くような言葉が行き交う五頭でありたいです。

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