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『甘口辛口』 ⑥

『甘口辛口』 ⑥
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―祖母の甘煮―
村杉の郷土料理のひとつに鯉料理があります。
子供のころ、わが家では鯉を池から揚げるのもさばくのも祖母の仕事でした。
大きな網でぐいっと鯉をすくう祖母はたくましく見え、鯉の頭を棒で打ち、気絶させる姿などは、
幼い私には恐ろしく目を覆うほどでした。
鯉には痛点がなく、打たれてもさばかれても痛さを感じていないのだと大きくなってから知り、
安堵(あんど)したのを覚えています。
五頭の伏流水で育った鯉は泥臭くなく、水が冷たくなったこの季節には脂がのっておいしいと定評です。
特にザラメ、水あめ、酒、醤油(しょうゆ)でとっくりと長時間煮込みあげた甘煮(うまに)は、
家それぞれの味が出て、家庭料理にもなります。
郷土料理とは単に味を残していくだけではなく、
それを作る人たちや想(おも)いをも受け継いでいくものだと思います。
今日も甘煮の注文が入りました。
厨房(ちゅうぼう)は祖母が生きていたころと同じ優しい甘い香りに包まれます。
たくましさがプラスされた祖母の甘煮がちょっぴり懐かしいです。
本当にたくましい祖母だったんです。
なんでも一人で上手にこなし、「おっかさま、おっかさま」と誰からも慕われていました。
小さな私にも子供扱いしないで、たくさんの事を教えてくれました。
私の基礎をつくってくれた人かもしれません。

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