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新潟日報 10月22日号『旬を味わい自然と調和』

つい先日まで、キンモクセイの濃密な香りが村杉温泉街に立ち込めていました。においというのは不思議なもので、過去の記憶を呼び起こしてくれます。地面に敷き詰められたオレンジ色の小さな花を、手のひらでかき集め、透明の瓶に詰めてふたをする。いつまでも香がなくならないように、と願った子どもの頃を思い出します。
 そんな魅惑のこの香り。実はこの辺では、知る人ぞ知る自然からのお知らせ、キノコ狩りの合図なのです。香りが届く前にもキノコは見られるのですが、それらは食用ではないことが多く、この香が里に届くまで、キノコ狩りをする人はあまりいないのだそうです。
 合図を受け、私も早速、ザルを片手に環翠楼の庭の奥へと向かいます。足元にはキノコが所狭しと連なり生えていました。私には同じようなキノコにしか見えないのですが、シメジやナメコのほか、地元ではカワキノコとか、ムキダケと呼ばれるいろんな種類のキノコが生えているのだと、うちの男衆が教えてくれました。
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 採ったキノコは丁寧にゴミと石づきを取り除きます。おみそ汁に入れると、トロッとしているにもかかわらず、シャキシャキとした歯ざわりを楽しむことができます。ふわっと口の中に秋のにおいを感じ、記憶に残る味とはこんなものなのかもしれないと思いました。
 里山の旬は、ここに住む私たちへのご褒美です。五感で感じ取れる全ての頂き物で、自然の循環の中で私たちが生かされているのだとあらためて感じることができます。
 「身土不二」という言葉があります。「身体(身)と環境(土)は不可分(不二)である」ということ、身体と土地は一元一体で、人間も環境の産物なのだという考えです。
 夏に採れる食物は火照った体を冷し、秋に採れる食物はこれから訪れる寒さに備えた体づくりを助ける作用があると聞いたことがあります。自分たちが暮らす土地のものを、旬の季節に食べて暮らせば、環境に調和し、健康でいられるという考えもまんざらではないと思います。
 今の生活をすっかり変えることは簡単なことではありません。ですが、自然の営みに心を傾け、季節の移ろいを大切にして生きる。そういう生活ができたら、心や体が今よりも楽になるような気がします。

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